バルコニーに乗せられる赤い衣服の両腕

 背景と同化する帽子の男。本作にはディエゴ・ベラスケスやムリーリョ、フランシスコ・デ・ゴヤによる同画題の作品『バルコニーのマハたち』、エドゥアール・マネの『バルコニー』、画家と同じくアメリカ出身の画家トマス・イーキンズなどへの高い関心とそこから吸収した成果の結果が示されている。


 挑発的な視線を帽子の男へ向ける若い女性。また帽子の男からも、白い衣服と首飾りを付けた若い女性に対してあからさまに好意を寄せていることがうかがえ、このような快楽的な感情性の表現は画家の作品としては非常に珍しく、その点でも本作は(画家の画業を考察する上で)重要視されている。


 バルコニーに乗せられる赤い衣服の両腕。高い写実性や強く明確な光と影による明暗対比、画面左側で下方に視線を向ける赤い衣服の女性と白い衣服の女性の色彩的対比、奥行きの喪失など技術的な面でも、カサットが過去の偉大な巨匠たちから受けた影響の痕跡をうかがい知ることができる。

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